琉球弧の歌謡を読む

沖縄、宮古、八重山の歌謡・古謡を現代語訳します

《イキヌプージトゥユミヤーのアーグ》(池間島)_2

船に変身した美女の物語

才色兼備の美女であったマッサビに、貴族や領主たちは、求婚するために仲人を派遣した。

その求婚をマッサビは拒絶する。

この歌の背景は通い婚の社会であった。通い婚の社会では夫は夜だけ妻のもとに通うことになる。もし夫が同じコミュニティの一員でないならば、昼間の夫は別のコミュニティに所属していることになる。

貴族や領主たちというのは、別のコミュニティに所属している可能性が高い。女性の立場からすると、貴族や領主は昼間の自分をサポートする存在ではないことになる。そのため配偶者としては不適切な存在だったのだ。

マッサビの父親は隣家の女性のもとに通い、結婚している。だから「賢い者」、「勝れた者」と呼ばれたのだ(イキヌプージトゥユミヤーのアーグ_1)。

マッサビも父親同様、思慮深いものであった。だから同じシマの男性と結婚したいと主張し、貴族や領主たちの求婚を拒絶したのだ。

しかし、そのような人間としての思慮深さは、神には通じなかった。

池間島からはるか離れた石垣島の於茂登岳(おもとだけ)の神が、山仕事をする若者に身をやつしてマッサビに求婚する。

於茂登岳の神は「竜巻の利巧者」と呼ばれる神である。竜巻を自在に操る荒ぶる神であり、人智を越えた智慧を持つ神だということになる。

マッサビは若者の求愛を拒絶する。貴族や領主の求愛をさえも断るのだから、山仕事をするようなみすぼらしい若者と結婚することはできないと。

すると、みすぼらしい若者に身をやつしていた於茂登岳の神は正体を表わし、竜巻とともに、マッサビを於茂登岳の頂上へと連れさってしまう。

「メガ」は女性の尊称だ。女性の名前の接尾語としても用いられ、宮古諸島の女性の名称として、「イサメガ」「タマメガ」「カニメガ」「ヨノスメガ」などの例がある。


《イキヌプージトゥユミヤーのアーグ》の出典は、外間守善・新里幸昭編『南島歌謡大成 3宮古篇』(1977年、角川書店)。カタカナで表記された中舌母音の「イ」は「ぅ」、「ジ」は「ずぃ」などのようにひらがなで表記した。

一段目は出典からの引用で、二段目は私訳(具志堅 要)である。


《イキヌプージトゥユミヤーのアーグ》(池間島)_2

まさりーやうてぃがら かさびーやうてぃがら
〔マッサビは、人よりも〕まさっていたので、〔能力が〕重ねていた(人の倍あった)ので、

うやうやぬ ぬずみーや しゅーしゅーぬ ふすみどぅ
貴族たちが〔妻にと〕望み、領主たちが〔妻に〕欲しいと〔言った〕。

うやうやぬ まいから しゆしゆぬ まいから
貴族たちの御前から、領主たちの御前から、

くぅぶぃとぅゆ くゆしば なかぶぃとぅゆ やらしば
請う人をよこしたら、仲人をやらしたら、

うやうやおぅ ぶとぅすぃてぃーにゃーん んなま みゃーすぃかりゃーまい
貴族たちを夫にする気はない。今は楽であっても、

てぃゆすぃみゃー ふーてぃがーよー うぅきゃー はだからまいよ
手を触れ合っているあいだは、〔夫が訪れて妻の家に〕居るあいだは安心であっても、

あとぅぬたみゃ にゃーんぱずぃ すぃまとぅなぅ ひらいんよー
後のためにはならないだろう。シマの隣近所とのつきあいはできないだろう。

すぃまぬぶとぅ むちゃだ すぃまとぅ まぅ ひらいーぱずぃ
シマの夫を持てば、シマの隣近所とつきあっていくだろう。

あんちゃずぃでい かいしば うさきゃーゆみむどぅしば
こう言って〔請う人を〕帰したら、それだけ述べて〔仲人を〕戻したら、

かいひーや うてぃが むどぅひーや うてぃが
帰していると、戻していると、

やまぬ ばかさずぃぬどぅ いなう まいふががどぅ
山の若佐事(山仕事をする若者)が、竜巻の利巧者が〔訪ねて来て〕、

うや うむんやてぃが ばんとぅうり まっさび
貴族を〔夫にしようと〕思わないならば、わたしと居りなさいマッサビ、

しゆゆ くずぃやてぃが さずぃとぅうり まっさびら
領主を〔夫に〕望まないならば、佐事と居りなさいマッサビよ〔と言った〕。

うやうがみ むぬすぃてぃ っヴぁとぅがみゃ うらいん
貴族さえ拒絶しているのに、あなた〔のようにみすぼらしい者〕といられるものか、

しゆゆがみ とぅりすぃてぃ さずぃとぅがみゃ うらいん
領主さえも拒んでいるのに、佐事〔のように身分の低い者〕といられるものか〔とマッサビは答えた〕。

っヴぁふんだいすぃみでぃが みが すぃだい すぃみでぃが
〔そうすると若佐事は、〕おまえのしたい放題にはさせない、メガ(女性の尊称)の思うがままにはさせない〔と言って〕、

うむとぅだき さーりぬーり すぃまぬんみ さーりぬーり
〔竜巻とともに、マッサビを〕於茂登岳に攫(さら)い登った。島の高峰に攫い登った。

 

(続く)