琉球弧の歌謡を読む

沖縄、宮古、八重山の歌謡・古謡を現代語訳します

《イキヌプージトゥユミヤーのアーグ》(池間島)_1

船に変身した美女の物語


宮古諸島の池間島には、船に変身した美女の物語・《イキヌプージトゥユミヤーのアーグ》という古謡がある。

「イキヌプージ」というのは、池間島の大按司という意味だ。按司(あじ)というのは、沖縄の古代共同体の首長の呼称。村落共同体の首長から数ヵ村落を支配する地域的豪族のことをいう。広大な水田の支配を背景とする日本の豪族とはイメージが異なるので、この歌では、按司を酋長と訳した。

「トゥユミヤー」というのは、名前が轟く親方という意味だ。

「アーグ」というのは、宮古諸島の歌謡の総称。一般にはアーグ、古くはアヤゴ。現在では歌全般を指すが、狭義には神歌以外の民謡をさす。

歌のタイトルは《池間島の大酋長のアヤグ》ということになるのだが、主人公は大酋長ではない。大酋長の末娘のマッサビという美女がヒロインだ。

おおまかなストーリーは次のようなものだ。

マッサビは大酋長の末っ子で才色兼備の美女であり、求婚者が群れをなした。求婚者たちを撥ねつけていると、マッサビは山仕事をするような身分の低い若者に誘拐され、石垣島の於茂登岳(おもとだけ)に幽閉されてしまった。

於茂登岳は標高525.5メートルの山で、古くから霊山として信仰の中心的存在となっている山だ。若者は於茂登岳の神が変身した姿だったのだ。

於茂登岳から逃げようとしたマッサビは山中で遭難してしまい、樹木に変身してしまう。

マッサビが変身した樹木から建造された船は、マッサビのように美しい船になった。

このようなストーリーだ。

長大な叙事詩なので、①マッサビが生まれるまで、②マッサビへの求婚と誘拐の話、③マッサビの樹木への変身譚、④造船の話、という4回ほどに分けて連載しようと思う。

今回は、池間島の大酋長が結婚しマッサビが生まれるまでのパートを掲載する。

池間島の大酋長の結婚は、通い婚だ。稲村賢敷は『宮古島旧記並史歌集解』(1962年)でこのアーグを《まつさびがあやご》として掲載しているが、稲村によると池間島では1962年当時でも通い婚だったという。

池間島では現在でも子供が二三人出来ても、独立して一家を持つようになる迄は男が女の所に通うようになっている。(稲村賢敷『宮古島旧記並史歌集解』)

訳がむつかしかったのは、「うぅがなすぃ」「だつぃがなすぃ」という言葉だ。「うぅ」は「上」かもしれない。出典では「うイ」という表記になっている。カタカナの「イ」は中舌母音となっているので、「降り」とも「上」ともとれる。

「降り」の場合は来訪神が降りてくることを意味する。「上」の場合は性愛の体位での「上」を意味するのだろう。「がなすぃ」は「かなし」で、「愛しい」という意味だ。

「うぅがなすぃ」では来訪神が地上に降りて来て妻を愛するという意味のなるのだが、日本語でそれにあたる熟語を見つけることはできなかった。

「だつぃがなすぃ」は「愛おしく抱く」という意味になるのだが、これも日本語の熟語を見つけることはできなかった。

《イキヌプージトゥユミヤーのアーグ》の出典は、外間守善・新里幸昭編『南島歌謡大成 3宮古篇』(1977年、角川書店)で、カタカナで表記された中舌母音の「イ」は「ぅ」、「ジ」は「ずぃ」などのようにひらがなで表記した。一段目は出典からの引用で、二段目は私訳(具志堅 要)である。


《イキヌプージトゥユミヤーのアーグ》(池間島)_1

いきぬぷーずぃ とぅゆみゃが とぅゆんぷーずぃ あがりゃが
池間島の大酋長・鳴り響く親は、鳴り響く大酋長・名高い者は、
よーい(囃子。以下略)

あかぅむぬ やりゅとぅい んさりむぬ やりゅとぅい
賢い者だから、勝れた者だから、

あがたから かゆいだ とぅゆさから みまがだよー
隣から通って、幼いころから見守って、

やさとぅとぅずぃ とぅみゅとぅい とぅなぅすみゃ だきゅとぅい
近所の妻を尋ねた、隣の恋人を抱いた。

うぅがなすぃ かたんな だつぃがなすぃ かたんむ
訪れて愛おしかったのか、抱いて愛おしかったのか〔と問われ〕、

うぅがなすぃむぬ あたん だつぃがなすぃむぬ あたんみゅ
〔池間の大酋長は〕訪れて愛おしい者だった、抱いて愛おしい者だった〔と答えた〕。

いふかゆーや いかんきゃ くぶさゆーや やらさだ
幾夜も通わないうちに、夜を重ねないうちに、

みどぅんま いつぃ まりゅーういば ぶなりゃ ななつぃ すぃじゅーいどぅ
女が五人生まれた。姉妹が七人誕生した。

まっさびーや いらまん まぶらいや どぅつぃまーん
〔誕生した女の子の中でも〕マッサビーはほんとうに、我が姉妹はとりわけて、

うとぅがっふぁてぃるがら なしゅーとぅーがてぃるがら
末っ子だから、生み止めの子だから、

んまりまい まさりゅーうい うぃでぃまい かさみどぅ
生まれながらに〔器量が〕まさり、生い立ち〔の器量〕も〔人に〕倍する者だった。

うむくとぅん まさりー なかずぃむん かさみーどぅ
思うこともすぐれ、思慮深かった。

 

(続く)